トピックス アラビア文字等紀年銘(クロノグラム)年代計算プログラムの公開

2018年05月16日

数字で1,2,3…と書くかわりに、a,b,c…,イ、ロ、ハ・・・のように文字で順番を表すことは、箇条書きなどでなじみ深いものです。しかしアルファベットの各文字に固有の数を割り当てて、文字の表す数の合計で数値を表すことは、日本ではあまりなじみがないかもしれません。この仕組みを使って年代を表すことを、紀年銘(クロノグラム)と呼びます。紀年銘は「文字通り」の意味とは別に、文字を使って特定の年代を表しているのです。こうした紀年銘の実例が、これまでに最も多く作られ、また今日なお作られているのは、アラビア文字なのです。


アラビア文字の28文字のうち、伝統的な配列で最初の9文字には1から9まで、次の10文字に10から90まで、その次の10文字には100から900まで、最後の文字には1000の数が割り当てられています。

転写名称数値
اアリフ1
بBバー2
جJジーム3
دDダール4
هHハー5
وWワーウ6
زZザーイ7
حハー8
طター9
يYヤー10
كKカーフ20
لLラーム30
مMミーム40
نNヌーン50
سSスィーン60
عアイン70
فFファー80
صサード90
قQカーフ100
رRラー200
شŠシーン300
تTター400
ثサー500
خハー600
ذザール700
ضダード800
ظザー900
غĠガイン1000


たとえばアラビア語で「心地よい町」を意味するバルダ・タイイバ(balda ṭayyiba ラテン文字転写で”BLDT ṬYBT”)を構成する8文字の合計は、2+30+4+400+9+10+2+400=857となります。イスラーム教徒の用いるヒジュラ暦857年は、西暦1453年、すなわちオスマン朝が現在のイスタンブルの町を獲得した年にあたります。紀年銘は、受験の語呂合わせのように、年代を記憶するのに役立ちますが、これを詩に読み込んで、文字通りの意味のほかに、さりげなく事件の起こった年や人物の没年や表すのが、詩人たちの腕の見せ所でした。


ただしこの紀年銘をいちいち手で計算していては、面倒ですし、間違いがちです。そこでアラビア文字の文字列を入力(またはコピー&ペースト)するだけで、年代が計算できるプログラムを公開しました。”Calculation result display”のボタンをクリックすれば、計算式と合計値が得られます。得られた計算結果は、瞬時にヒジュラ暦から西暦に換算されて別ウインドウに表示されます。


このプログラムは、紀年銘を表すために詩人たちが用いた様々な技法にも対応しています。例えばイスタンブルで見つけた墓碑(写真)の最後の詩句「現世を旅立った、オスマン・パシャは」と記した文字列をそのまま計算すると、結果は1667年、西暦に直すと2238年で、没年が未来になってしまいます。正しい解答を得るヒントは、前行の「彼の死には、紀年銘は宝石をちりばめた文字より生じた」という詩句に隠されています。「宝石をちりばめた文字」とは、線と点から構成されるアラビア文字のうち、点のある文字のこと、つまり没年は点のある文字だけを合計しなくてはならないのです。プログラム上で”Calculate letters with dots”のタブを選択して、上記の文字列を計算すると、
   0+7+0+0+10+0+0+300+0+0+0+0+10+0+0+10+0+500+0+0+50+2+0+300+0 = 1189
すなわち西暦1775年という正しい年代が得られます。


逆にもし、点のない文字だけ計算せよというヒントの詩句があれば、プログラム上で”Calculate letters without dots”のタブを選択すればよいのです。

もっと知りたい!という方は……。
アラビア文字紀年銘(クロノグラム)年代計算プログラム

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