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インド・歴史書文献の電子データ化

このプロジェクトでは12世紀半ばにカシミールで編纂されたサンスクリット歴史叙事詩『ラージャタランギニー』の電子テキストを検索機能付きで公開しています。

 

南アジアの歴史を語るうえで、しばしば「史書なきインド」と言われることがあります。この言葉は二つの意味で正しくありません。第一に、古代以来インドでは「ヴァンシャーヴァリー(族譜)」や「イティハーサ・プラーナ(古譚)」と呼ばれるサンスクリット・プラークリット文学のジャンルがあり、定義を広くとるならばこれらも歴史叙述に含めることができます。第二に、この言葉には「インドの共通語」がサンスクリットやプラークリットのみであるという暗黙の前提があり、ペルシア語で書かれた史書は前近代南アジアにおいて多数存在します。

 

ともあれ、サンスクリットで書かれた「王朝史」と呼べるような作品が前近代南アジアにおいて非常に少ないことは確かです。その中でもほぼ例外的な作品と呼べるのが、この『ラージャタランギニー(諸王の川)』です。著者カルハナは時のカシミールの王朝、第二ローハラ朝の王ジャヤシンハに仕えたバラモンの詩人で、1148年から49年頃にこの作品を完成させました。全8章7,826詩節からなり、カルハナが当時参照しえた文献・碑文・遺物など様々な史料を駆使して、カシミールの先史時代からジャヤシンハ王までの諸王朝史を綴っています。文体は優れた韻文で、文学としても価値の高い作品です。

 

本プロジェクトでは、19世紀末に刊行されたオーレル・スタインによる校訂本をもとに『ラージャタランギニー』のテキストをデーヴァナーガリー文字の電子データとして入力したもので、古代・中世南アジア史の第一級史料を研究者が利用しやすい形で公開しています。

 

(文責:小倉智史)

 


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