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故湯川恭敏所員の調査テープに残された言語データの電子化およびメタデータ公開

このプロジェクトは,AA研の元所員でもあった故湯川恭敏博士(1941〜 2014)によるアフリカのバントゥ諸語に関する調査資料をデジタル化するとともに,そのメタデータを公開するものです.

 

アフリカ大陸の赤道以南で話されるバントゥ諸語は,系統的にはニジェール・コンゴ語族に含まれる一大言語群で,500を超える言語が話されていると言われています.湯川博士は,日本におけるバントゥ諸語研究のパイオニアとして,1975年の最初の調査から30年を超える長きにわたって,121言語/方言を現地調査によって記述し,その成果を多くの著書・論文に残されました.現在でも未だ十分な記述研究がなされていないバントゥ系の言語が少なくないことを思えば,ひとりの言語学者によってこれだけの数の言語の一次資料が集められたことは,驚嘆に値することと言ってよいでしょう.そして,とりわけ動詞アクセント研究によってバントゥ語研究の世界に広く知られた湯川博士の残された録音資料およびフィールドノート等は,それらの言語の歴史の断片を物語るとともに,後進の研究者にとっても貴重な研究資料となるものです.

 

本プロジェクトでは,これら録音資料(カセットテープ約500本)およびフィールドノート等の文字資料をすべてデジタル化するとともに,調査対象言語名と,言語名に対応する公刊論文,語彙調査資料,フィールドノート,録音テープ等の膨大なメタデータをリスト化して提示しています.また,各言語の話されている地点をプロットした地図も掲載しています.この地図に示されている領域を一人の言語学者が自らの足で探索したという事実に,きっと圧倒されることでしょう.

 


参考情報:

アラビア文字紀年銘(クロノグラム)計算プログラム

数字で1,2,3…と書くかわりに、a,b,c…,イ、ロ、ハ・・・のように文字で順番を表すことは、箇条書きなどでなじみ深いものです。しかしアルファベットの各文字に固有の数を割り当てて、文字の表す数の合計で数値を表すことは、日本ではあまりなじみがないかもしれません。この仕組みを使って年代を表すことを、紀年銘(クロノグラム)と呼びます。紀年銘は「文字通り」の意味とは別に、文字を使って特定の年代を表しているのです。こうした紀年銘の実例が、これまでに最も多く作られ、また今日なお作られているのは、アラビア文字なのです。

 

アラビア文字の28文字のうち、伝統的な配列で最初の9文字には1から9まで、次の10文字に10から90まで、その次の10文字には100から900まで、最後の文字には1000の数が割り当てられています。

 

  転写 名称 数値
ا アリフ 1
ب B バー 2
ج J ジーム 3
د D ダール 4
ه H ハー 5
و W ワーウ 6
ز Z ザーイ 7
ح ハー 8
ط ター 9
ي Y ヤー 10
ك K カーフ 20
ل L ラーム 30
م M ミーム 40
ن N ヌーン 50
س S スィーン 60
ع アイン 70
ف F ファー 80
ص サード 90
ق Q カーフ 100
ر R ラー 200
ش Š シーン 300
ت T ター 400
ث サー 500
خ ハー 600
ذ ザール 700
ض ダード 800
ظ ザー 900
غ Ġ ガイン 1000

 

たとえばアラビア語で「心地よい町」を意味するバルダ・タイイバ(balda ṭayyiba ラテン文字転写で”BLDT ṬYBT”)を構成する8文字の合計は、2+30+4+400+9+10+2+400=857となります。イスラーム教徒の用いるヒジュラ暦857年は、西暦1453年、すなわちオスマン朝が現在のイスタンブルの町を獲得した年にあたります。紀年銘は、受験の語呂合わせのように、年代を記憶するのに役立ちますが、これを詩に読み込んで、文字通りの意味のほかに、さりげなく事件の起こった年や人物の没年や表すのが、詩人たちの腕の見せ所でした。

 

ただしこの紀年銘をいちいち手で計算していては、面倒ですし、間違いがちです。そこでアラビア文字の文字列を入力(またはコピー&ペースト)するだけで、年代が計算できるプログラムを公開しました。”Calculation result display”のボタンをクリックすれば、計算式と合計値が得られます。得られた計算結果は、瞬時にヒジュラ暦から西暦に換算されて別ウインドウに表示されます。

 

このプログラムは、紀年銘を表すために詩人たちが用いた様々な技法にも対応しています。例えばイスタンブルで見つけた墓碑(写真)の最後の詩句「現世を旅立った、オスマン・パシャは」と記した文字列をそのまま計算すると、結果は1667年、西暦に直すと2238年で、没年が未来になってしまいます。正しい解答を得るヒントは、前行の「彼の死には、紀年銘は宝石をちりばめた文字より生じた」という詩句に隠されています。「宝石をちりばめた文字」とは、線と点から構成されるアラビア文字のうち、点のある文字のこと、つまり没年は点のある文字だけを合計しなくてはならないのです。プログラム上で”Calculate letters with dots”のタブを選択して、上記の文字列を計算すると、
   0+7+0+0+10+0+0+300+0+0+0+0+10+0+0+10+0+500+0+0+50+2+0+300+0 = 1189
すなわち西暦1775年という正しい年代が得られます。

 

逆にもし、点のない文字だけ計算せよというヒントの詩句があれば、プログラム上で”Calculate letters without dots”のタブを選択すればよいのです。


もっと知りたい!という方は……。

『モロッコのベルベル語による民族誌的語り』刊行

このたび情報資源利用研究センター(IRC)より、『モロッコのベルベル語による民族誌的語り』(中野暁雄著・堀内里香編訳)が刊行されました。

本書は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の中野暁雄元教授が遺された民族誌テキスト全3巻(東京外国語大学学術成果コレクションでPDF公開中。リンクは下記より)を、堀内里香さんが日本語に翻訳して一冊にまとめたものです。

 

Studia Berberi (I)     Studia Berberi (II)   Studia Berberi (III)

 

本書の目次は以下の通り。「これから俺は俺たちシルハの兄弟たちの言葉で君たちに話をすることにしよう。俺たちの村は……」といった具合に、次々とテーマに沿った様々な語りが展開していく魅力的な一冊です。

  1. 食事
  2. 衣類
  3. 道具と食器
  4. 人の暮らし
  5. 相続
  6. 集い
  7. 都市でのスース人の生活
  8. 子ども
  9. 宗教
  10. 我々の故郷
  11. 畑仕事
  12. 菜園と林の仕事
  13. 家畜
  14. 養蜂と狩猟
  15. 人間に害をなす獣
  16. 人びとの仕事
  17. 特殊な人びとの特殊な仕事
  18. 少し前のスースの暮らし
  19. 俺たちの土地の歴史
  20. 婚礼の歌
  21. 男性の問答歌
  22. 補足

 

===書誌情報===

Studia Culturae Islamicae No. 106   Studia Berberi (IV)

ISBN 978-4-86337-257-3
判型 B5判 xx+243頁
刊行 2017年10月
発行 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

制作 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所情報資源利用研究センター(IRC)

2017年度プロジェクト「中野暁雄著『ベルベル民族誌』のデジタル化と日本語訳の刊行」

 

本書の入手方法については下記をご参照ください。

http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/publications/inquiry

 

ここでは本書の制作に携わったIRCの小田淳一さんによる本書へのメッセージ《刊行について》を掲載するとともに、編訳者の堀内里香さんにまとめていただいた、本書刊行の経緯や原著の学問的意義、日本語訳の意義、さらに1,200語からなる語彙集を含む117ページに及ぶテキスト《『モロッコのベルベル語による民族誌的語り』刊行に寄せて》(PDF 3.1MB) を掲載します。

 

 

《刊行について》

文・小田淳一(AA研)

 

本訳書の刊行に至るまでの経緯については本書の中でも触れられているが,訳者の堀内里香さんから最初に頂いた「はじめに」は非常に長大なもので,それだけでも優に論文1本になるぐらいの量と内容だった。訳文の本体も原著3巻を一冊にしたため大部になったので,過去にAA研から出版された同種の刊行物の構成やその他諸々の事由を勘案して,かなりの部分の割愛をお願いせざるを得なかった。私の方でも刊行に関わった経緯を1ページ程度の緒言にまとめようと書き始めたところ,肝心な点に行き着かないうちに5ページを超えてしまい,結局は緒言を書くことを断念した。どうしてこのようなことになってしまったのかを問い直してみると,それは多分,中野さんが残した仕事の凄さと,中野さん本人の不思議なキャラクターから来ているのだろう。

©️Akio Nakano

本書の刊行を巡っては様々な巡り合わせを感じる。情報資源利用研究センター(IRC)が設立された1997年度に原著の最終巻である第3巻が刊行され,20周年を迎えたIRCが「紙媒体」の書籍を刊行するのは本書が最初である。本書の企画を提案して下さった堀内正樹さんは,あちこちのフィールドや研究会や宴席で多分一番長く一緒に過ごしてきた先輩である。大学でフランス文学専攻だった訳者の堀内里香さんがベルベル語についての論文を書いた時に敢えて受け入れたH先生は,私が40年前に通っていた中世フランス語読書会では若手の親分格で色々とお世話になった。中野さんが亡くなられる少し前に,イエズス会の神父が歌舞伎町の雑居ビルに開いた宣教スナックで偶然お遇いした。中野さんは赤ワインを1本注文し,週刊誌をゆっくり読みながらそれを空けてしまった。別れ際に珍しく固い握手をした時に中野さんがいつもとは少し違う笑顔だったのは,私が本書に関わることをその時既に予見していたのではないかと思ったりするが,それはあながち荒唐無稽な話でもない。アラブの占卜表ザーイラジャはマラケシュのスーフィー行者によって創案されたので,中野さんがそれを習得していた可能性はある。

©️Akio Nakano

IRCサイトで本書の紹介文を書くよう依頼された際,訳者の堀内里香さんにも書いて頂きたい旨をお伝えしたところ,短いバージョンと長いバージョンを送って下さった。前述の通り,本書の「はじめに」は言わば縮小バージョンであるが,容量の制限がないweb上での紹介という折角の機会なので,長いバージョンを以下に掲載する次第である。

 

 

『モロッコのベルベル語による民族誌的語り』刊行に寄せて》(PDF 3.1MB)

 

【終了しました】IRC設立20周年記念シンポジウムを開催いたしました

当シンポジウムは2017年12月9日 (土)、多数のご来場をいただき盛況のうちに終了いたしました。
情報資源をどのように活用するかについてだけではなく、ふだん聞くことのできない情報資源の作成・製作の段階のお話も多くあり、たいへん実りあるシンポジウムとなりました。
ご協力・ご参加いただきましたすべての方にお礼申し上げます。

  • 情報資源利用研究センター (IRC) 設立20周年記念シンポジウム
    「人文知の資源化とアーカイビング 情報を育て、活かす」

東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 (AA研) 付属情報資源利用研究センター (IRC) は、今年で設立20周年を迎えました。これを記念して企画した本シンポジウムでは、IRCで実施されてきた数々プロジェクトの中から、人文知を資源化する側と、資源を活用する側の両方の立場の方々にご登壇いただき、人文知を資源化するプロセスや、資源の共有にまつわる様々な問題、またそれを活用することで生まれた研究について話し合います。
人文知の資源化やアーカイビングに関心のある方はどなたでもご参加いただけます。多くの皆様のご参加をお待ちしています。

  • 日時:2017年12月9日 (土) 13:30?18:15 (開場 13:00)
  • 場所:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 3階 304室
  • プログラム:
  • 13:30-《開会のことば》: 飯塚正人(AA研所長)
  • 13:45-《基調講演》: 高島淳 (AA研所員)「カンナダ語・英語・日本語3言語電子辞書の構築について」
  • 14:15-《事例紹介ライトニングトーク》
  • (1) 阿部優子 (東京女子大)「ベンデ語の語学教材のマルチメディア版」
  • (2) 小田淳一 (AA研所員)「インド洋民話のデータベース化」
  • (3) 児倉徳和 (AA研所員)「チュルク諸語対照基礎語彙」
  • (4) 江川ひかり(明治大学)・髙松洋一 (AA研所員)「オスマン朝演劇ポスター」
  • 15:05-《資源化する側と活用する側の対話》
  • (1) 岩尾一史 (龍谷大学)・西田愛 (神戸市外国語大学)「古チベット語文献オンライン」
  • (2) 髙松洋一 (AA研所員)・岩本佳子 (日本学術振興会特別研究員/AA研)「アラビア文字紀年銘クロノグラム」
  • (3) 奥田統己 (札幌学院大学)・小林美紀(国立アイヌ文化博物館設立準備室)・深澤美香(国立アイヌ文化博物館設立準備室)「アイヌ語音声資料公開」
  • (4) パネルディスカッション「資源化と活用の未来に向けて」
  • 18:15-《閉会のことば》: 星泉(AA研IRC長)
  • 使用言語:日本語
  • 参加費:無料
  • 事前申込:不要
  • 主催: 情報資源利用研究センター(IRC)

ワークショップ「世界の知識を翻訳しよう」を開催いたしました

さる2017年10月28日(土)、IRC設立20周年・ウィキペディア日本語版始動15周年記念ワークショップ「世界の知識を翻訳しよう」を開催いたしました。

当日は台風が近づいておりあいにくのお天気だったのですが、たくさんのご参加をいただき、盛況のうちにイベントを終えることができました。

翻訳という観点から、ウィキペディアのこれまでのことと最新の動向について、4人の登壇者の方にお話しいただきました。
日本語版が始動して15年の間に広く普及したウィキペディアですが、閲覧はしていても、記事の作成・翻訳といった段までは携わっていないという方も多いのではないでしょうか。今回のワークショップでは、実際に記事の翻訳に携わっていらっしゃるみなさまから直接お話をうかがうことができ、たいへん興味深く聞かせていただきました。

ワークショップ後半では、登壇者・司会者のみなさまに助けていただきつつ、参加者の方々が実際に記事の翻訳に挑戦する時間が設けられました。
マニュアル・ドキュメンテーション等が存在していても、実際に手を動かしてみると分からない点が出てくることも多くあります。その際に知識をお持ちの方にご助言をいただけることは心強く、多くのことを学ばせていただきました。

今回初めて翻訳に取り組んでみて、今まで以上にウィキペディアが身近なものに感じられた方も多いのではないかと察せられます。
このワークショップ開催にご尽力をいただきました登壇者・司会者のみなさま、参加された方々にお礼申し上げます。


AA研『カンナダ語辞典』が仏学士院平山郁夫賞を受賞

アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)が2013年に刊行したKannada-English Etymological Dictionaryを編纂した功績により、著者の内田紀彦博士とラージャプローヒト博士がフランス学士院(碑文・文学)の2017年度平山郁夫賞(Prix Ikuo Hirayama)を受賞しました。この賞はフランス語で言う「極東」(アフガニスタン、インド以東のアジア)に関する優れた研究業績を顕彰するものです。両博士に心よりお祝い申し上げます。フランス学士院の公式発表はこちらからご覧いただけます。授賞式は11月にパリで行われます。

内田紀彦博士(元園田学園女子大学教授)は長年にわたりAA研の共同研究員を務められ、ラージャプローヒト博士(元インド諸語中央研究所教授)もAA研の客員教授として2度滞日する一方、母国インドでもAA研との共同研究を続けてこられました。
AA研では、1980年代から1990年代前半に故奈良毅教授が主導した電算機利用によるインド諸言語の国際共同研究を継承・発展させる形で、1990年代後半から高島淳教授(この辞書の編集者でもあります)と内田・ラージャプローヒト両博士を中心にカンナダ語・英語・日本語の3言語電子辞書の構築が進められてきました。
長期にわたるこのプロジェクトは、AA研情報資源利用研究センター(IRC)の支援や文部科学省のCOE拠点形成・特別推進研究(COE)「アジア書字コーパスに基づく文字情報学の構築」(GICAS)プロジェクト等の協力を得て結実し、その成果はカンナダ語英語日本語電子辞書として公開されていますが、書籍の形での刊行を望む声も多かったために、カンナダ語・英語部分のみを2013年度に出版したのが今回受賞したKannada-English Etymological Dictionaryです。この辞書は広く学界から、現時点で最良の辞書として歓迎されました。

AA研究で公開されているカンナダ語英語日本語電子辞書。高島淳教授が構築・編集・公開に尽力した。画像をクリックすると辞書サイトに飛びます。

また、日本語部分については2016年に三省堂より『カンナダ語・日本語辞典』として刊行され、本邦初の本格的なドラヴィダ語の辞書として高く評価されています。

高島淳編、内田紀彦・B.B.ラージャプローヒト著『カンナダ語・日本語辞典』(2016年 三省堂)リンク先では辞書の見本ページが公開されていますのでぜひご覧ください。